Posted by admin on 2008/07/04
(お話を伺った方)
宝印刷株式会社
常務執行役員 近藤一仁様
執行役員 大津克彦様
早いところは1月ごろに企画が始まり、6月から8月にかけて完成するアニュアルレポート(3月期決算の場合)。日本IR協議会が会員企業に対して行った2007年度のアンケートによると、 現在約4割の上場企業が、海外の投資家や株主に向けて、英文で経営内容などの総合的な情報発信を目的に作成している。海外の投資家の動向が日本企業の株価に影響を与える今、企業が海外に向けてどうIRをしていくかは重要である。
従来のディスクロージャー資料は、数字の羅列だけということも珍しくなく、今後の戦略や経営理念について説明をする意識が足りなかった。しかし最近では、アニュアルレポートに企業の財務データ、中期的な経営戦略、社会的責任など総合的な情報がうまくまとめられているものが多くなってきた。
欧米では、一般的に会社案内というものは作られない。そのため、海外(特に欧州)の投資家回りには重要な役割を果たすアニュアルレポートだが、個人投資家・機関投資家向けのバランス、四半期開示による負担増等で、どれだけのコストをかけるべきか悩んでいる企業が多い。
○アニュアルレポートの問題点
(1)言語の問題
国内外の投資家に対応するため、英文・和文でアニュアルレポートを作成する企業が増えている。言語表記の違いから、問題も生じる。
英文アニュアルレポートに関しては、
①最初から英文で作成
②和文→英文に翻訳する方法があり、
和文アニュアルレポートに関しては、
③最初から和文で作成
④英文→和文に翻訳、の方法がある。
②和文→英文に翻訳した場合、日本語で原稿を作成後に英訳をするので、英文が言いたいことを適切に表現できていないと感じることも少なくない。④も同様である。
英文アニュアルレポート制作の場合、表現のチェックに関しては、細心の注意を払いたいところだ。業界やその企業特有の用語のチェックなどは、通常の翻訳者では対応が難しく、同じ翻訳者に継続的に発注をするのが効率的である。企業によっては、自社のカバーアナリストだった翻訳者に英文の添削を依頼したりするケースもあるようだ。また、アニュアルレポート制作を依頼したIR支援会社とは別の会社で英文チェックを行っているというケースも散見される。
制作歴が長い企業では、英文と米文での表現の違いが問題になることもある。いずれにせよ、各社ともチェックには相当の労力を投下しているのが実情といえよう。
(2)アニュアルレポート=英語版財務諸表と誤解している企業が多い。
アニュアルレポート制作を、英文ツールの制作と捉えている企業もある。アニュアルレポートは、事業内容や事業戦略をライターと話し合いながらまとめていく作業だ。アニュアルレポートの存在意義を理解し、自社にとってどんな役割を果たすのかをあらかじめ想定していないと、無駄な出費になる可能性も否定できない。
(3)コストの問題
アニュアルレポート制作に関しては、
①デザイン
②コーポレート・アイデンティティを盛り込んだ文章の作成
③英文の場合のネイティブチェック
④監査法人の承認
⑤印刷
⑥郵送
など、コストの上昇要因が数多くある。企業は、限られたIR予算の中で、アニュアルレポートを作る目的を再認識し、最適なコストで制作する必要がある。支援会社に依頼する場合は、コンペを行うなどして、アニュアルレポート制作の目的と、それに関わるコストが均衡している会社に依頼するのが良いだろう。
>>アニュアルレポート制作の課題と最近の傾向(2)
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取材・文/萩原恵子