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どうなるGM、どうなるフォード

Posted by admin on 2009/01/02

 さて、ビッグスリーである。

 08年12月19日にアメリカのブッシュ大統領は、GMとクライスラーの2社(共にアメリカ)に対し、1兆5,000億円の緊急支援を行うことを発表した。これによりGMとクライスラーは、当座の運転資金を確保し、越年するが可能となった。ブッシュ大統領によると「金融危機と同じく看過することは政府として責任のある行動ではない」そうだ。「責任ある行動」の続きとしてアメリカ財務省が12月29日に、GMの金融子会社であるGMACに4,500億円の資本注入することを発表した。いずれにせよミルク補給を受けた同2社の09年の年初は、リストラクチャリンク策をまとめ上げることに東奔西走、といった形になることだろう。

 同じビッグスリーであるフォードに関しては、一足早くリストラクチャリンクを行って来ていたため、今回の資金援助は受けなかった模様だ。事跡を見ると確かにアグレッシヴにリストラクチャリンクを進めていた。なかでも出色だったのはPAG(プレミアム・オートモーティブ・グループ)の売却だろう。07年03月にはアストン・マーティン・ラゴンダ社(イギリス)の株式の大部分を4億7,900万ポンドでレーシングチームを運営するプロドライブ社(イギリス)の代表であるデビッド・リチャード氏を中心とした投資家グループに売却、08年03月にはジャガー・ディムラー・ランドローバーの3社(全てイギリス)の株式をインドのタタ・モータースに23億ドルで売却した。その後の世界経済の状況を見ると前述のような高級車メーカーに対する買い手はつきづらくなってきている。恐らくGMは、ハマー(アメリカ)などの高級ブランド整理には手を焼くことになる。ほぼ最良の時期での売却劇に関し、07年にフォードCEOに就任したアラン・ムラーリー氏の手腕には一定の評価が与えられるだろう。


 閑話休題。

 以前IRコラムにて紹介した新聞記者氏のネタで自動車に関連するモノを一つご紹介したい。この記者氏、とても記者らしく大層な読書家で、某大手古書店を訪問しては、105円の棚で本を買いあさっているのだが、そのなかに佐藤正明氏の著書「ホンダ神話~教祖のなき後で~」があったそうな。氏は迷わずその本を購入し、読み始めるのだが、読み進むうちに大変な事実に気づく。なんと、中ほどのところで2ページほどが破りとられていたのだ。

 破り取られていたページは、アメリカ・ホンダで磨いた国際感覚と天性の明るさでホンダ(日本)の次期社長候補の一人と目されていた入交昭一郎(いりまじりしょういちろう)氏が、M資金の話を持ち込んだ「黒い紳士」との接触により失脚していくくだりで、この著書のヤマ場の一つである。この著書では、この一件で川本信彦氏(後の社長)とのマッチレースに敗れた入交氏に、後にGMからヘッドハンティングの申し出があったとしている。このヘッドハンティングは、入交氏の友人で、某有名コンサルティンググループのH氏の助言によって不成立になるそうなのだが・・・。後に入交氏はセガ・エンタープライゼスのTOPに就任することになる。

 さて、破り取られていたページに落胆した記者氏は何をしたのか?書籍をもう1冊購入?立ち読み?いいえ、本屋に走り、当該のページを開くとおもむろにペンとメモを取り出し「写本」したのだった。その部分を持ち帰り、改めて読み返して、溜飲をさげたそうな。


 話を本論へ戻そう。現在の自動車業界を見ると非常に厳しい。世界経済の牽引車たる米国の消費は、09年も大きな期待は出来ない。当然、米国への輸出を成長源としていた新興国も、原油価格の高騰で潤っていた産油国も、成長の減速は避けられないところだろう。

 現に欧州域の自動車メーカーでは、日米より早いピッチでリストラクチャリンクを進めている。08年9月末の時点で、ルノー(フランス)が期間工6,000人を削減。フィアット(イタリア)は08年の09-12月の間で数週間の工場操業停止。どのメーカーも、08年09月の段階で、ディーラーの過剰在庫圧縮、生産調整、ワークシェアリング、人員削減などに着手し、「車の売れない」09年に備えを進めていた。

 日本でも半歩遅れて前述と同様の対応を進めている。どの経営者にも、半年先の情勢は全く読めていないのではないのだろうか?特に日本企業に関しては「円高」という不確定要因が深い闇を作り出している。09年初頭は、各自動車メーカーのTOPが「低燃費車」で?東奔西走する姿が数多く報道されるだろう。おそらく自動車に限らず多国籍企業のIR担当者は、為替市場の動向に注視しながら、開示に関して微妙な決断を日々迫られるに違いない。いずれにせよ明るい話題は当分出る要素はない。


 ところで先述した入交氏がホンダのTOPもしくはGMの要職を一時期でも努めていたのならどうなっていただろう?そのどちらかのメーカーは今よりもさらにアカデミックで明るい会社であったかもしれない。もし入交氏が、M資金の「黒い紳士」との関わりがなければ、もしくはGM移籍に関して「後ろ髪を引いたコンサルタントH氏」との関わりがなければ、とふと思うことがあるのは小職だけだろうか?


 文・構成 加藤晋

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