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2010年06月 アーカイブ

2010年06月01日

相手の視点に立ったデザイン

 

 IR領域のデザインに携わるものとして常に心掛けていることは、そのツールのターゲットはどういった人なのかを理解し、デザインに反映することです。
 ターゲットが変われば、それにふさわしいデザインもまた変わります。
 以前、行政や地方自治体を顧客とするツールを作成する機会がありましたが、その際強く求められたことは「読みやすい」「解りやすい」「親しみやすい」ことでした。
 例えば、各世帯に配られる広報誌や便利帳などは、読み手が老若男女さまざまであり、日常生活に密着する情報誌として、文字の読みやすさと正確さが最重要事項でした。
 また、手に取りやすく親しみやすい要素として、手書きのイラストを取り入れたり、柔らかい暖かみのある印象を与えられるように、直線より曲線を多く用いてデザインしたりしました。

 この考え方は、IR領域でいうと、個人投資家向けの株主通信を作る際にも当てはまると思います。主に機関投資家向けのツールであるアニュアルレポートとは異なり、株主ひとりひとりのもとに届けられ、企業状況を伝達するツールとして、株主が求めている情報を視覚的に見やすく、解りやすく伝えなくてはいけません。また、株を長期保有し、ファンでい続けてもらえるように、その企業の魅力を最大限に伝え、印象に残るようなIR情報を訴求することが重要になります。

 「見やすさ」を追求する上で今後ますます取り入れられていくものとして、カラーユニバーサルデザインが上げられると思います。人間の色の感じ方は一通りではなく、遺伝子タイプの違いや目の疾患による色覚の違いがありますが、なるべくたくさんの人に同じように情報が伝わるよう配慮しつくられたデザインを、CUD(カラーユニバーサルデザイン)といいます。
 デザインの考え方として、背景色に文字をのせる際、同系色にならないようにする/色の強弱・変化だけでなく、形状や位置、線種の違いなどを併用し、確実に情報が伝わるような工夫/文字サイズや書体の考慮/色の差が判別しやすい推奨カラーの使用 などがあります。日本人男性の20人に1人、女性は500人に1人の割合で色覚の違いを持つといわれる現代、企業情報を正確に伝えるためにも、一方通行ではない、相手の視点に立ったデザインが必要であると思います。

 企業には一つ一つに個性やアイデンティティがありますが、その企業を構成するたくさんの点の要素を線にし、面にすることで、企業像を具体化することに繋がると考えています。

 今後も、企業と投資家を繋げるコミュニケーションツールを制作するものとして、五感に訴えかけるような、見る人を惹きつけるデザインを創造し、企業の「らしさ」を伝達する一翼を担えればと思います。

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2010年06月08日

IRにもマーケティング的な発想を

 

 経済環境が大きく変動する中、IR活動で何をどのように行えばよいのか悩まれている企業が意外と多いように見受けられます。しかし、このような状況だからこそ、マーケットの変化や自社の業績の良し悪しに関係なく、やるべきことを地道にやり続けることが大切でありそれがIR活動の大原則となっています。
 企業によってIRに対する取り組みはさまざまですが、外部から高い評価を得ている企業には、以下のような共通した特徴が見られます。

◆経営者トップの特徴
 ・経営者自らが、積極的にIRに参加している
 ・IR担当者と密なコミュニケーションが図られている
 ・トップダウンでIRを全社に浸透させている

◆IR担当者の特徴
 ・投資家からの意見を、悪い情報も含めて適切に経営者へフィードバックしている
 ・投資家と丁寧なコミュニケーションが図られている
 ・社内・社外の関係部署と連携が図られており、横断的な取り組みができている

 企業の内外のみならず、社内においても社員や関係部署をつなぐ、いわば「コミュニケーション」を結節させる機能として、その役割を果たしているか否かが重要そうです。

 さて、こうした「コミュニケーション」的なアプローチ以外に重要な視点がないか考えてみます。ご存知のとおり、昨今、急速に「CSR」や「ブランド価値」などの「無形の資産」を評価する動きが高まりつつあります。また、IFRS導入への適切な対応など、IRの守備範囲は広がってきています。このように領域が広がることは、企業ごとのIR活動の差が、より一層つきやすくなっている状況であるとも考えられます。

 IRは「社会とのコミュニケーション活動」ですが、「マーケティング活動」と考えることもできます。最近のマーケティング領域においては、従来のような「売る側・買う側」といった単純な構図ではなく、「パートナー」として一緒により良い商品・サービスを作り上げていくという新しい流れも出てきています。上述したようなCSRやIFRSといった、まだまだ「手探り」の「新しい」ものについては、こうした「一緒に作る」考え方をIRの領域に当てはめることは有用ではないでしょうか?

 まだまだ「教科書的あるべき像」が決まっている訳ではありません。投資家と共にスタンダードを築いていく、という発想に立ち意見を聞いてみることで、投資家との信頼関係が強固になるとともに、中長期的な企業価値形成につながる有益なヒントを得る機会もたくさんあるでしょう。

 IR活動にマーケティング的な発想を加え、新たな視点で投資家と向き合い、丁寧に関係を積み重ねていく。こうした地道な活動が、業績だけでは担保できない「信頼」を築きあげていく一つの有力な方法ではないでしょうか。


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2010年06月15日

4つの「P」とIR活動への接続

 

 営業担当として、様々な企業のIR担当者とお会いする機会があります。どの企業もそれぞれ個性があり、心から応援したいと思う会社に出会えることがこの仕事の醍醐味のひとつです。

 ところで、そもそも人はどのようなポイントに企業の魅力を感じるのでしょうか。
人が組織に共感する要素として、4つの「P」があるといわれています。

1.「Profession=仕事、事業」:その組織(企業)が行っている事業や生業
2.「People=人」:その組織(企業)に属している人
3.「Philosophy=理念」:その組織(企業)が掲げている理念や思想
4.「Privilege=特権」:その組織(企業)に関わることで得られる特権

 何を魅力に感じるかは人それぞれであるため、一概には言えないものの、心理学、社会学側面からもこれらの軸に分けることができます。

 当然のことながら、投資家の方々は「Privilege=特権」、つまり、投資活動を通じ何かしらの利益を得ることを魅力と感じていると考えられます。キャピタルゲインや株主優待等がまさに「特権」です。
 一方、昨今の景況下、企業側としても「特権」を魅力的に伝えることは難しいケースも珍しくありませんが、特権以外の他の3つを通じて、企業の魅力を伝えることも可能です。

1.「Profession=仕事、事業」を伝える:
 企業が提供している商品・サービスに加え、「仕事」のやりがいや、社員が「仕事」を通じて学んでいることを伝え、「企業活動」そのものに興味を持ってもらうこともひとつの魅力因子となります。決算説明会等の質疑応答で、自社の商品の社会における意味や意義を語る社長などがその代表的な例です。

2.「People=人」を伝える:
 アニュアルレポートではトップインタビューという形で、社長の“人物像”にフォーカスを当てて紹介するケースがあります。また、株主通信で、社内で注目を集める社員や名物社員等のコメントを掲載し、どのような「人」がどのような考えでその企業に従事しているのかを伝えるという手法も効果的です。

3.「Philosophy=理念」を伝える各企業のIRサイトの個人投資家向けページでは、会社案内コンテンツが充実した企業が増えてきています。これは、企業活動の構造、更にはその企業がどのような価値を社会に提供し、どういった社会を実現していくのか、いわば企業の「理念」への共感を目的としています。また、最近では、アニュアルレポートの冒頭に、数字ではなく自社の理念を伝えるページを持ってくる企業も増えてきています。
また、株主総会も、従来の形式にはこだわらず、“感謝祭”という形でステークホルダーを招き、さまざまなイベントを通して根底にある理念を共感する場と位置づける企業もあります。


 IR活動というと、「Privilege=特権」にフォーカスしがちですが、それ以外の3つの「P」にもスポットを当てることで、自社の魅力を違った角度から伝えることが可能になるのではないでしょうか。

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2010年06月21日

開かれた株主総会に向けて

 

 今週から3月決算企業の株主総会の開催がピークを迎えます。弊社でも、事業報告のビジュアル化制作や株主総会の動画収録・配信、総会運営準備などピークを迎えています。

 さて、今回タイトルに挙げた「開かれた株主総会」ですが、長きにわたり株主総会運営の課題・目標として掲げられてきました。
このテーマのもと、各社が注力した結果、以前のような儀式的な総会、あるいは総会屋を連想させるダーティな総会といったイメージは、個人株主や一般の方からほぼ一掃され、今では工夫を凝らした個性溢れるユニークな株主総会も登場してきています。

 そんな中、‘開かれた株主総会’に向けた取組みで注目したのが、ソニーの株主総会です。
 今年から同社では、インターネットを活用した株主総会のLIVE配信を株主限定で実施しました。株主総会のLIVEや生中継でいえば、以前から豊田通商がインターネットを活用してLIVE配信を一般に公開し、参加したくとも参加できない株主の地理的事情に配慮した取組みはありましたが、なかなかこうした取組みが他の企業に普及することはありませんでした。
株主権利の捉えかたにより、多くの企業で一般公開が積極的に実施できなかったためです。
その点、今回のソニー株主に限定したLIVE配信は、この問題点をクリアにすることができます。

 多くの企業では、60~70代の株主が主流であり、依然株式の売買は対面取引の証券会社を経由していますが、この世代のインターネットアレルギーは年々薄れてきています。
インターネットLIVEや生中継ではなく、実際に総会に出席できることが理想ではありますが、株式は一般的には市場を通じて売買されるため、株主は世界中に点在することとなり、全員参加の株主総会は現実的ではありません(この場合、企業サイドの金額的負担も現実的ではありませんが…)。
また、総会に対して参加・視聴願望がすべての株主にないとしても、今回のソニーのような取組みは、視聴者に企業理解を深める効果以外にも、スタンス面で株主から支持を受けることが予想され、長期保有促進に寄与すると考えられます。もちろん、同時に株主総会を「儀式」ではなく、「説明責任の場」としてわかりやすい意味のある総会にする努力も必要です。企業の成長戦略や理念の実現には、安定した長期株主が欠かせません。

 実施には、それなりのコストがかかるものであり、費用対効果を考慮しなくてはなりませんが、株主数が多い企業であればあるほど検討する価値はあるのではないでしょうか。
 証券会社勤務時代に多くの投資家(株主)と接した私としては、株主にとってよりよい環境が整うことを願っています。

 さて、話は変わりますが、ご存じのように今年の株主総会では、10年3月期から1億円以上の役員報酬を受け取る役員名と報酬額を個別に有価証券報告書に開示することが義務付けられたことから、役員報酬額や開示について注目が集まっています。既に株主総会が終了したソニーやHOYAでも質疑応答時に株主から質問があがったことや、個別役員報酬額が新聞などのメディアで報道されていることから、1億円以上の役員報酬を得ている・得ていないに関わらず、多くの企業の株主総会で株主からの質問が相次ぐのではないかと予想しています。

 各企業もこの手の質問に対する回答は事前準備されているかと思いますが、機械的な受け答えではなく、株主にとって納得感のあるトップによる懇切な回答、それこそ‘開かれた総会’が開催されることを願っています。


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2010年06月28日

アニュアルレポートの財務セクションの充実に向けて

 

 今回のコラムではアニュアルレポート(以下、AR)の主要セクションの中から、財務セクションを取り上げたいと思います。ARの主たる読者である投資家にとって、財務情報は投資判断を下すにあたって最もベーシックな情報であり、財務セクションも充実した内容であることが求められています。
 一般的に、ARの財務セクションは、

A.主要財務データ
B.経営分析および財務分析(MD&A)
C.連結財務諸表
D.連結財務諸表に係る注記

の4つのパートから構成されています。CとDは形式がある程度決まっており、企業の裁量余地が少ないことから、ここではAとBに絞り、どのような観点で掲載内容を検討していくことが望ましいかについて、ご説明したいと思います。

A.主要財務データ
 このパートでは、投資家が企業を分析する際に必要となる財務情報の推移(※一般的には6カ年もしくは11カ年)が掲載されています。
 掲載項目は大きく3つに分類できます。また、投資家が投資判断を行うにあたって、最低限必要となる基本情報はそれぞれ下記のとおりです。
(1) BS/PL/CF情報  「売上高」「営業利益」「当期純利益」「総資産」「純資産」など
(2) 一株当たり情報  「一株当たり当期純利益」「一株当たり純資産」「配当金」など
(3) 経営指標  「ROE」「ROA」「自己資本比率」など

 また、基本情報の他に、その企業特有で必要な情報についても考える必要があります。その際には、企業のビジネスモデルによってキーとなるファクターは異なりますので、その点を踏まえて検討することが重要です。
一例をあげると、不動産賃貸事業を主力としている企業のビジネスモデルは、借入れなどの手法で調達した資金をもとに不動産を取得・開発し、賃料収入を得るものです。このケースにおいて、投資家が気にする情報は、投資と回収のバランス、保有物件の稼働状況、財務の健全性などです。
 それゆえ、掲載する情報としても、「投資額」「減価償却費」「フリーCF」、「保有物件の空室率や平均賃料」、「有利子負債」「ネット・デット・エクイティ・レシオ」などが求められます。
 また、主要財務データの選択にあたっては、ネガティブな情報だから掲載しないというスタンスは避けるべきです。たとえネガティブな情報であっても、投資家の分析・判断に必要な情報であれば、継続的に掲載し続けることが、結果的には投資家の信頼獲得に繋がります。

B.経営分析および財務分析(MD&A)
 自社の経営成績や財務状態の分析が記載されており、投資家にとって最も関心の高いパートの1つです。英語では「Management Discussion and Analysis」となることから分かるように、本来は、経営陣が自社の状況をどのように認識・分析しているかを表明するものです。海外企業ではGEやP&Gを筆頭に非常に充実した内容となっていますが、残念なことに、日本企業では、決算短信や有価証券報告書の定性コメント+αの情報に留まっており、今一歩深い分析に踏み込めていないというケースが散見されます。特にBSやCFに関する情報は質・量ともに不足しており、改善が求められます。
 掲載内容が充実しているMD&Aの構造は、「経営方針や目標とする指標」「事業環境」「経営成績(主にPL)」「財政状態(主にBS/CF)」「設備投資の状況」「投資方針や主要な投資先」「資金調達の状況」「利益配分に関する基本方針」「次期の見通し」「リスク要因」などとなっています。これに加えて、中期経営計画など中長期での計画が策定されている場合は、その概要と進捗についても言及することが望ましいです。
 このような構造のもとで、要因分析を中心に展開していくのですが、連結財務諸表からは把握できない定性情報も織り交ぜた上で、どこまで詳細に分析していくかが一つの鍵となります。連結財務諸表を見れば、開示されている科目レベルでの増減額は理解できますので、単にそれが増加・減少したという記述をしても、投資家にとっては有用な情報とはなりえません。売上高という科目をとってみても、事業別・地域別などセグメントレベルでの記載はもちろんのこと、たとえば主要商品別といったレベルでの記述が理想です。また、要因分析にあたっては、その背景や理由・意図に言及することはもちろんのこと、可能な限りそれぞれの影響額を記載していきます。さらに、ROEやROA、自己資本比率などの主要経営指標についても適切な箇所での言及が望まれます。

 最後にMD&Aの見せ方(デザインレイアウト)のポイントをご説明します。このパートはどうしても文字量が多くなることが避けられませんので、読者に読み疲れをさせずに、かつ情報が分かりやすく伝わるデザインレイアウトに仕上げることが重要です。たとえば、構造を整理した上で、「売上高」「売上高・売上総利益」「販売費及び一般管理費・営業利益」といった水準ごとにタイトルとして括ることで検索性を高める、グラフや表を効果的に活用することなどで、見違えるほど分かりやすいMD&Aにすることができます。

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