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2010年07月 アーカイブ

2010年07月07日

社員に伝えるIRメッセージ

 

 プロ野球のペナントレースも折り返し地点となりますが、今年は複数のプロ野球球団が「クレド」を導入しているそうです。
「クレド(credo)」とはラテン語で「信条」などの意味があり、企業の行動指針などを簡潔に記した携帯型の社員向け心得集です。数年前には、高いホスピタリティで有名なホテル、ザ・リッツ・カールトンの「クレド」が話題になったので、聞き覚えのある方も多いことでしょう。

 なぜ「クレド」が必要なのでしょうか? それは、企業が個人の集合体だからです。個人はその人の価値観で動きます。50人の社員がいれば50の価値観が存在します。50人が各々の価値観で動けば、企業としてのまとまりや統一性はなくなってしまいます。その結節点となるのが「クレド」です。その企業に属する個人が拠り所とする価値観とも言えると思います。

 例えば、あるブランドのお店で買い物をした際に、あるスタッフの接客を気に入り、そのブランドのファンになったとします。しかし、別の店舗では、全く違う対応をされ、残念な思いをした経験はありませんか? それは、スタッフの接客が、その個人の価値観によるものであり、企業として統一されたものではないからです。「クレド」が全スタッフに浸透していれば、顧客は、東京でも、ニューヨークでも、世界中どこでも同じような質の高いサービスを受けることができるのです。
 
 誰もが知っているように、「いつ」「どこででも」「同じように」質の高いサービスを実践できる企業は多くありません。ですから、そのような経験をできた際に、顧客は感動を覚え、その企業のファンになるのです。

 IRという領域で考えてみると、経営陣が投資家に発信した理念や計画と、各部門・各拠点での行動が連動しているか、ということになると思います。経営陣の発信を、ひとりひとりの社員が自分のものとして理解していれば、今後の業績にも好影響が期待できます。また、経営陣と社員が1枚岩で動いている姿は、投資家への説得力を格段に高めることでしょう。

 経営陣やIR担当者は、投資家に向けては熱心に情報発信を続けますが、是非、その内容を社員に向けても積極的に伝えてほしいと思います。また、アニュアルレポート制作などで、原稿作成や取材などを現場の方々に依頼をする場合には、メールや電話だけではなく、現場に足を運ぶことをお勧めします。IR担当者の熱意ある活動を目の当たりにすれば、社員の方々からIR活動への興味も引き出すことができるのではないでしょうか。


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2010年07月13日

複数メディアによる効率的な情報発信

 


 最近、担当しているクライアントからのご要望の中で共通した現象として挙げられるのが、アニュアルレポートやCSRレポート、環境報告書など、これまで紙媒体が主と考えられてきたコミュニケーションツールの制作において、紙媒体(冊子)とWebという複数のメディアを連動させたいというニーズです。届けたい情報、届けたいターゲットなどによって、紙媒体とWebを使い分けたり、連動を図ったりして、よりコミュニケーション効率を高めようという考えが広まっています。背景として、冊子のページ数を減らすためのコスト削減の観点というのは大きいものの、冊子とWebという複数のメディアを連動させた情報発信に対して、意義やメリットを見出し始めている傾向があると考えられます。

では、紙媒体である冊子とWebと、それぞれのメリットを簡単に考えてみます。

【紙媒体】
・Portable…持ち運びができるため場所や環境を選ばない
・Comprehensible…情報の全体像が比較的簡単に把握できる
・Recordable…重要な情報、必要な情報をマーキングすることで記録できる
・Thought-Provoking…手元でじっくり読むことができ、深い理解や思考を促せる

 紙媒体の場合、現物が手元にあるため、情報が記憶に残りやすく読み返す頻度も高い可能性があります。逆に、ページ数や文字量に影響した情報量の制限や印刷コストなどのデメリットが考えられます。

【Web】
・Retrieval…検索性が高く、必要な情報にたどり着きやすい
・Encompassing…大量の情報を扱える、また蓄積もできるため情報が網羅されている
・Variable…e-bookや音声・動画など、多様な形態で情報を伝えられる
・Instant…即時性のある情報発信ができる

 Webの場合、上記のメリットに加え、一方通行の情報発信だと考えられる紙媒体に対して、アンケートや問い合わせなどの双方向コミュニケーションが図りやすいことや、印刷しないので環境に負荷を与えないという考えもあります。ただ、インターネットに接続できることを前提としているため、情報にたどり着ける人が限られるというデメリットがあります。

それぞれのメリット・デメリットが分かった上で次に考えるべきことは、ではどのような情報を、どのメディアを通して伝えるかです。
 メッセージ性のある内容(経営者メッセージなど)、強く訴求したい内容(理念や基本姿勢など)、新しい・主な取り組み(特集企画など)を紙媒体(冊子)に載せ、Webにはそれらの詳細情報や関連情報、経年変化が見られるデータや数字関連を補完するなど、上手にそれぞれのメディアの特性を活かした情報発信をしていると見受けられます。また、完全に役割分担をして情報を棲み分けるだけでなく、冊子の中でWebへの誘導を入れるなどして、冊子とWebとの連携を図り補足充足関連性を持たせることで、読者が必要な情報にたどり着きやすくするための工夫を施しているケースが多くなっています。

 大切なことは、伝えたい情報を誰に・何を・どのように伝えるのが一番効果的かつ読者にとって便利なのか、ということを各企業が整理することです。企業によって考えは様々ですし、伝えたい情報も様々です。
 情報の種類や発信の仕方を今一度整理し、アニュアルレポートやCSRレポートという制作物をコーポレートコミュニケーションという総合的な概念で捉え直すことで、より効率的なメッセージの伝達が可能になるのではないでしょうか。
コミュニケーションの基本である「誰に」「何を」「どのように」をコーポレートレベルで改めて見返すことをお勧めします。


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2010年07月22日

自発的なCSR活動に向けて

 

 最近、CSR (Corporate Social Responsibility)という言葉を耳にする機会が増えてきたのではないでしょうか。
 今、企業がステークホルダーに対して責任ある行動を示す必要性が高まっています。
日本においては、CSRに対する取り組みは諸外国に比べても早く、1970年代から企業の社会的責任という言葉が使用されてきました。しかしながら活動の内容には各社かなり開きがあるというのが現状です。
 CSRは、企業の社会的責任という語感から、課せられる、負担、といったマイナスイメージを生みがちですが、「~しなければならない」という義務的な捉え方ではなく、ステークホルダーとのコミュニケーションの貴重な機会と捉え、積極的に取り組んでいくことが最終的には企業価値向上へと繋がっていきます。CSRが直接的な利益を生み出すことは無くとも、ステークホルダーからの信頼という目に見えない価値を生み出す企業活動だと捉えれば、重要な課題であると認識できるのではないでしょうか。

 CSRご担当者から、経営陣にCSRの重要性を如何に伝えるかに苦心している、予算が思うように取れない等のお声を頂くことが多々あります。ご担当者は、活動の必要性には迫られているけれども、思うように活動を展開できない、もどかしい状態に置かれているのが現状のようです。
 経営陣の活動への理解と共に、参加する社員の意識醸成も大事なポイントになります。忙しい中、休日を返上して参加するのは会社の命令だから、という状況では活動を長続きさせるのは難しいものです。例えば、活動の様子やその活動が生まれた背景や歴史を伝え、結果をフィードバックするための映像作品を作りHPに掲載するなど、モチベーションを向上させるコンテンツを用意することで、「やるべき」から「やりたいへ」意識変革を行うことも、CSRを充実させていくためには重要です。

 CSRを考えることは自社の在り方を社会という視点から見つめ直す事でもあります。また、模範が無く独自に答えを見出さなければならないことは、裏を返せば信頼を勝ち取るための自社独自の答えを持つことができるということでもあります。CSRへの社会の関心が高まっている今、企業活動の重要な課題の1つとして捉え、真摯な態度で社会との対話を重ねることができる企業が求められています。

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2010年07月26日

わかりやすい言葉でわかりやすいIRを

 

 「被用者」、「監護」。
 今年5月、仙台市が市民に発送した「子ども手当」の申請書にあった言葉です。「ひようしゃ」、「かんご」と読むことはできても、どういう意味かわかる人は多くないのではないでしょうか。
 やさしい言葉で言い換えると、「被用者」は「会社勤めの人」、「監護」は「親など手当を請求している人自身が子どもを育てていること」で、もともとは法律用語とのことです。法律の世界では当たり前の言葉も、一般社会では通用せず、「意味がわからない」と市民からの問い合わせが市のコールセンターに殺到したそうです。こういうニュースが流れると「だから、お役所仕事なんだ。少しは市民の立場になれ」と思う人がいるかもしれません。
 では企業が開示する情報はどうでしょう。「子ども手当」の場合は、きちんと申請書に必要事項を記入しないと手当をもらえる時期が遅れてしまうため、意味不明な言葉に対して問い合わせが殺到したわけですが、企業がWebサイトやアニュアルレポートなどで公開している情報に対して「意味がわからない」と問い合わせてくれる人はどれくらいいるのでしょう。ほとんどの人はアクションを起こさずに意味を理解しないまま終わってしまっているのではないでしょうか。

 IRというと投資家に向けた広報ということで、どうしても収益や経営指標など数字に重点を置いた情報発信がメーンとなります。もちろん投資の判断として財務データは大切な情報の一つですが、個人投資家(ファン)獲得と長期保有を課題とする企業が増えている今、目に見えない企業価値をわかりやすく伝えていくことも重要になってきています。
 新しいビジネスモデル、経営者の理念や経営戦略、優秀な人材、経済合理軸だけを追求しない事業展開など、数字の裏に隠れている企業価値はたくさんあります。その「目に見えない価値」を可視化するためには、より具体的でわかりやすい、伝わるコミュニケーションが必要不可欠です。専門用語やカタカナ語を多用したり、社内でしか通用しない言葉を使用したり、わかりづらいけれど以前からこの表現なのでよしとしていたら……。それは「伝えた」ことだけに満足している、一方的なコミュニケーションです。コミュニケーションは「伝わる」ことで、初めて価値を生むことを認識する必要があります。

 例えば、CSRという言葉。読売新聞が2009年9月に実施した「都市生活者Web調査」によると、CSRを「知らない」と答えた人が全体の76.0%にものぼり、意味まで知っている人はたったの8.5%だったそうです。上場企業では当たり前のように使っていますが、一般的には認知度がとても低い言葉なのです。企業価値の一つでもあるCSR活動の報告が自己満足的な発信にならないよう、自社のCSRに対する考え方をわかりやすい言葉でていねいに伝えることが価値のあるコミュニケーションにつながると思います。
 自社の価値を正しく理解してもらえる言葉で発信しているのか。改めて、「伝わる」コミュニケーションについて考えてみてはいかがでしょうか。


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