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2010年08月 アーカイブ

2010年08月04日

より重要になる個人投資家視点

 

 2010年6月以降に終了する四半期決算から新様式の決算短信が適用され、その変更の一つとしてサマリー情報に下記の項目が追加されることになりました。

四半期決算補足説明資料作成有無 :有・無
四半期決算説明会開催の有無    :有・無

 この2つの項目は何を意味するのでしょうか。
 これまでアナリスト向けの決算説明会は開催しているものの、実施の有無を開示していなかった企業や、決算説明会資料を作成しているものの、WEBに掲載を行っていない企業などはその実態が浮き彫りになるということです。そこでこれに該当する企業では、今後個人投資家に不信感を抱かせることのない公平な開示に努めなくてはなりません。
 説明会の情報や資料が個人投資家の目にとまる機会が多くなることを想定すると、説明会に参加していない人にその内容をいかに正しく伝えるかということも非常に重要になってきます。では具体的にどのような方法があるでしょうか。
 もっとも効果的だと考えられるのは上場企業の約500社が実施しているといわれている決算説明会の動画配信です。説明会と同様の場をインターネットを通じて作り出すことにより、公平性はもちろんのこと、説明している表情や受け答えなどからも臨場感や企業姿勢などを伝えることが可能です。この動画配信は今後ますます増えていくものと思われます。
 一方、読むだけで伝えたいことが伝わる資料作成にも力を入れていく必要があるでしょう。プレゼンテーションの補足資料という機能とは別に、資料単独であっても効率的、効果的に理解を促進する役割が求められています。
説明会資料作成には以下の3つのポイントがあります。

1. ストーリー化
資料全体を通してもっとも訴求したいポイントは何かを整理し、資料全体のストーリーを設計していきます。データ系の資料はすべて最後にまとめ、前半に説明用の資料をもってくるなどページ構成の工夫が重要となります。

2.要点の明確化
1ページごとに何を伝えたいかがひと目でわかることが重要です。たとえば財務資料は表だけをただ並べるのではなく、増減理由などの要点を一言記載することで読み手 の理解を促進させることができます。

3.デザイン、フォントの統一感
色を必要以上に多用せず、スライド全体を通じて統一感を持たせることがコツです。またフォントなど細かい箇所まで配慮することで、資料のクオリティは格段に上がります。

 以上のポイントに加えて、説明会資料に社長説明のスクリプトを合わせて記載する方法もWEB掲載を行う上では有効だといえます。
 このように決算短信への決算説明会、資料作成有無の記載義務化をきっかけに、これまでの「開示」といった枠組みを越え、「コミュニケーション」といった観点で、個人投資家視点に立ったIR活動を進めることが求められています。


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2010年08月10日

アニュアル・レポートにおける時代と、そのデザインについて

 

 一般的にデザインや写真・図案などは、その時代の人々への訴求効果を考えて作成されています。したがってアニュアル・レポートを始めとするIRツールのデザインにも作られた時代感が反映されていると思います。

 私がデザインに携さわり始めた1982年当時、まだ日本ではアニュアル・レポートを制作している企業が少なく、一般的な企業においては、作ろうとする意識も薄く、グローバル企業のみが主に海外の株主や投資家向けに英文で作成していた時代なうえに、どこかバタ臭さく米国を意識したデザインが多く、アニュアル・レポートデザインの創世記とでも言える時代だったと思います。

 余談になりますが、そのころ私はニューヨークのCorporate Annual Report社を見学する機会がありました。米国では地域が広いためコンペなどはほとんどなく、一つの企業を長年支援しているため制作スタッフやカメラマンもその企業のパートナーとして認められているとのことでした。したがって写真なども一年を通じ一番良い時期に撮影。その上カメラマンが被写体と懇意な間柄になれるため、表情を捕らえた臨場感のある写真が撮れていること。印刷に関しても、写真の色調や色味についてはデザイナーの納得の行くまで色校正を行い、その費用は印刷会社の負担になるなど、日本では考えられないほどスケジュールにゆとりがあり、また仕上がりに対するこだわりが大きく違う事に驚かされました。

 2000年頃になると、ようやく日本の企業にもディスクロジャー意識がかなり浸透し、日本語版によるアニュアル・レポートの作成が増えてきました。これをきっかけに日本でもアニュアル・レポートが広く普及して行ったのではないかと私は思っています。企画やデザインも米国を意識することよりも独自の特集を設けるなど記載項目にも、その企業の特色が出るようになりました。この様な成長過程を経て現在に至っていると思います。

 では、時代も作り方も違う今後の日本で、IRツールのデザインはどこを目指すべきなのか?

 企画のロジックを表現することは勿論、ただデザインが美しいだけではなく、その企業のカラーや独自のメッセージをどれだけ読み手に伝わるようにデザインするか。経済合理軸よりの傾向がある投資家に、どのようにして数字以外の部分でも心をつかみ、手にとって読んでもらい、伝えたいことを伝わるようにするかが、デザイン表現にかかる役割、可能性ではないかと。
 クリエイターが関わることによって、ひとつの方向性としてではありますが、一冊の物語として読んでもらえる様なアニュアル・レポートを目指すことができるのではないかと私は考えます。

 DTP技術の進歩により様々な表現が可能になった現在、そういった意味で世界の株主にメッセージを発信することを前提に、私達クリエイターは、より社会経済的視野をもって世の中や時代がその企業に対し何を求めているかを感じとる感覚を研ぎすまし、企業の想いをより読み手に伝えられるような努力をし続けなければならないと思います。クライアントと数ヶ月という長い時間をかけて紡ぎ上げていく場で、十分に価値を発揮していくことにこれからのIRデザインの形があると信じます。


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2010年08月23日

「世界観」の持つ大きな引力~ヴィジュアル系を例に~

 

  「経験価値」という言葉をご存じでしょうか。性能や品質、価格で売り込む製品や、顧客の便益をカスタマイズしたサービスといった従来の経済価値とは異なり、感動の演出によって顧客が「経験」を得ることに価値がある、という考え方です。これは『経験経済-脱コモディティ化のマーケティング戦略』(B・J・パイン、J・H・ギルモア著)の中で提唱されている概念で、「経験価値」は、コモディティ・製品・サービスに続く第4の経済価値として述べられています。製品やサービスをコモディティ化させないためには、企業はブランド戦略を練り上げ、自社が演出する世界観に圧倒的な共感を獲得することが必要となります。機能的な便益ではない情緒的な感動は、他社では得られない「経験」という付加価値をもたらし、顧客は高いお金を払ってでもその「経験」を求めてリピートするようになるのです。

 「経験価値」の具体例には、ディズニーランドやスターバックスがよく引き合いに出されるのですが、私はその最たる例として、音楽様式のひとつである「ヴィジュアル系」(以下V系)が挙げられるのではないかと思います。V系バンドは、1990年代後半に隆盛を極めてからも、コアなファンに長く支えられ、現在でも根強い人気を誇っています。世間一般には「化粧が濃いだけの過激なバンド」という誤解をされがちですが、ここでは「日本独自の文化であり、独自の世界観を持って活動しているバンド」と言うに留めておきます。
 彼らのファンが、お気に入りのバンドメンバーのコスプレをして集結している姿や、ライヴで一様に激しく頭を振っているシーンなどを、テレビで見たことがある方もいらっしゃるかも知れません。V系のファンが熱狂的なのは、単にバンドのつくる楽曲や歌詞、メイクやファッションだけではなく、バンドがつくり上げる「世界観」そのものに共鳴しているからなのです。この場合、メイクやファッションは、楽曲と相まって「世界観」をつくり上げるための一要素です。コスプレは、メイクやファッションを真似ることで、この「世界観」に陶酔するための行為です。ライヴは、バンドが表現する「世界観」を全身で体感するための場であり、バンドメンバーとファンが一体となる「非日常感」が生み出す感動は、心揺さぶる大切な「経験」として次回への強力なリピートにつながります。

 V系を例にとって述べましたが、独自の「世界観」は大きな引力を持ち、他者(他社)との差別化を図り、ファン(顧客)の圧倒的な共感を獲得することを可能とします。感動をより効果的に演出し、顧客に「経験価値」を感じさせるには、「世界観」を再現性のある言葉に落としたメッセージや、さらなる展開を期待させるストーリーも重要になるでしょう。「世界観」というと大げさに聞こえてしまうかも知れませんが、自社が大切にしているこだわりや、自社らしさという言葉に置き換えて考えてみると分かりやすいかも知れません。自社らしさを演出する最も分かりやすい手法は、意味凝集性が高く、オリジナリティのある言葉をつくり出し、浸透させていくことではないでしょうか。例えば、株式会社リンクアンドモチベーションでは、自社の「世界観」を端的に表現する言葉として「ひとりひとりの本気がこの世界を熱くする」というコーポレートキャッチを掲げ、名刺やメールの署名をはじめとしてさまざまなシーンで展開しています。このキャッチの受信者は、リンクアンドモチベーションらしさというものをどことなく感じ、その「世界観」と接続することが可能になるのです。コーポレートコミュニケーションを考える大前提として、ステークホルダーに本当に自社らしさが伝わっているか否か、一度立ち止まって考えてみる機会を持ってみてはいかがでしょうか。

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