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2010年11月 アーカイブ

2010年11月02日

ステークホルダーとの開かれたコミュニケーション

 

 私は10月28日〜30日の3日間、京都で開かれた日本癌治療学会 学術集会に行ってきました。日本全国から約8000名の医療従事者(医師、看護師、薬剤師方々)や、がん患者会の患者さん、医療メーカーなどが集まり、「がん」に関わる様々なテーマについての講演、シンポジウム、パネルディスカッションなどが実施されました。
 少し前のがん治療においては、医師は「良い治療成績を残すこと」が求められていました。手術の執刀数や、手術後の生存年数が注目されていました。少し極端な言い方ですが、医師はがんを上手に切ってしまえば良い、そして数多くの経験をつめば良いとされていました。
 ところが最近のがん治療においては、医師は「患者さんにとっての良い治療」が求められています。例えば患者さんによっては、治療後の社会復帰、職場復帰が大変重要になります。がんを切ることによって治ったとしても、その後の生活を考えた際には体への負担が少ない薬物療法のほうが患者さんにとって良い治療であるわけです。末期の患者さんにとっては、痛みで苦しむことよりもQOL(=Quality of Life。生活の質)どれだけ人間らしい生活を送ることができるかが大切になります。このような時代変化の中、医師は看護師や薬剤師とともに、患者さんやご家族とコミュニケーションをとり、患者さんにとって良い治療を考えていきます。医師は、様々なステークホルダーとのコミュニケーションが求められており、説明責任を果たす必要があります。
今回の学会でも、様々な立場の方が、「患者さんにとっての良い治療」について、議論を重ねていました。

 ステークホルダーとの開かれたコミュニケーション、説明責任が必要とされるのは、医療だけではありません。例えば農業。食の安全が求められる昨今、スーパーの野菜売り場では、顔写真つきで、生産者が野菜の生産方法を紹介していることをよく見かけるようになりました。自然食品店では、農薬と化学肥料を使わない農作物が高値で売れています。もともとは生産過剰による価格の暴落で悩んでいた農家が、農業の原点に立ち返り、無農薬・減農薬栽培を始めたことがきっかけです。当初は、見た目が悪いと言われて安値でしたが、農薬の使用を出来るだけ抑え、生産履歴を細かく伝える方法で固定客をつかみ、今では高い収益を上げています。
 少し前の農業において、生産者の説明責任の対象は「農協などの卸先」でしたが、最近では、「最終消費者」に対して直接発信することで、価値の伝達を実現しています。

 企業経営においても同様のことが起きていると感じています。
これまで、企業経営においては、自社の売上・利益の最大化が求められていました。そして、適正な株価形成もしくは株価の向上を目指していました。向うべきステークホルダーは「株主」や「顧客」が重要視されていました。
 ところが昨今の企業経営において、「企業の社会的責任」、「社会との調和」を前提とした売上・利益の獲得が必要とされています。先週まで開催されていたCOP10/生物多様性会議において、各団体・企業が生物多様性に関する最新の取組みを紹介していましたが、このような流れの一例と言えるでしょう。「株主」や「顧客」に限らず、様々な「ステークホルダー」との関係性の強化が、最終的に企業の価値向上に繋がるのではないでしょうか。

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2010年11月22日

オンライン・アニュアルレポートの現状について

 

 AR2011に向け、オンライン・アニュアルレポートに関する相談が増えてきている。その多くは、紙冊子版からオンライン版への移行を前提としているケース(紙冊子版は廃止)である。これに対して当社は、「使い分けは有効だが、Webは万能ではない」と考えている。紙冊子版からオンライン版への移行ではなく、より訴求力を高めるためのプラスオンツールとして有用と捉えている。
オンライン・アニュアルレポートのメリットは、

(1)動画によるエモーショナルな訴求が可能
(2)レポート内リンクによるアクセシビリティの向上
(3)タブレットやスマートフォンでの閲覧を前提としたポータビリティの向上(まだ発展途上だが)
などが挙げられる。

 しかしながら、Webは万能ではない。一覧した時の情報インプット量は、圧倒的に紙の方が高い。筆者は日経新聞を電子版に切り替えたが、時間がない時の流し読みに適さず不便を感じている。アニュアルレポートでも、まずは短時間でザックリ目を通す投資家が多いことを考えると、オンライン・アニュアルレポートには弱点があることを認識する必要がある。

 ここで海外のオンライン・アニュアルレポート事情を確認してみよう。各種アワードのオンライン・アニュアルレポート部門で高評価を得ている事例をチェックすると、Webならではの機能を駆使したものが高評価になっているわけではない。結局、掲載内容のクオリティでジャッジされているように思われる。グローバルで見ても、オンライン・アニュアルレポートは、まだ発展途上と考えて間違いなさそうだ。また、多くの企業は、オンライン・アニュアルレポートとともに、紙冊子版も制作している。すなわち、オンライン版が紙冊子版の代替になるとは考えていないことの表れである。

 以上のように、まだ発展途上のオンライン・アニュアルレポートではあるが、発展途上だからこそ、Webならではの利点を有効に使い、高い利便性と訴求力を実現した企業にとっては、コーポレート・コミュニケーションの大きな武器になると思われる。
大切なことは、オンライン・アニュアルレポートを作ることありきで考えるのではなく、目的立脚で考えること。自社のIRをはじめとするコーポレート・コミュニケーションの課題を明確化するとともに、自社のリソースや優位性を冷静に認識した上で、最適な手法をとることが効果を最大化するための第一歩となる。

 オンライン・アニュアルレポートは、動画によるより分かり易く訴求力のあるメッセージ伝達が可能になるとともに、Webならではの情報へのアクセシビリティを実現できるなど、有用性は高い。目的にマッチした高質なオンライン・アニュアルレポートが増え、よりギャップの少ないコーポレート・コミュニケーションが実現することを期待する。


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